再び「必要は発明の母」となって経済社会は発展するか?
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サブプライム危機に短期的には救済で対応し国民心理の冷え込みが経済全体に及ぼす甚大なインパクトを回避し, 長期的にはデリバティブ等の金融技術の不動産市場への適用によるリスクの小口化・分散化を図り、持家関連の各種保険制度の整備拡充といった社会インフラとしての金融制度を充実発展させて、その効果を国民全体が享受できるようにすること(financial democracy)であると説く。
1929年の世界恐慌後に発明(創設)された住宅ローン関連の種々の制度、預金保険機構、証取委員会の設置といった(現在では当たり前と思われているような)社会インフラの整備は、当時の状況からは非常に大胆な発想だったが、現下の危機に臨むに際しても同様に「必要は発明の母」としての想像力豊かで大胆な発想が求められており、著者の提言は長期的施策の中身の一部を構成する。関心させられるのは、金融技術の進歩に対する、この確固たる揺ぎ無い信念である。
一方で、私は金融の門外漢で見識も持ち合わせていないが、長期的施策の前提となるべき部分では、(本書151ページで引用されている論文からも) デリバティブが資産市場のボラティリティを縮小させるということは必ずしも実証研究では(否定的結論は出ていないものの)総じて肯定的には証明されている訳ではない様であるし(但し流動性面では効果はあるらしい)、不動産関連市場でのデリバティブの推進が不動産バブルの発生を回避することに繋がるのかどうかは、デリバティブが更に進んだ株式市場でも依然バブルは発生していることを考えると効果の程については良くわからない。また、そもそもデリバティブを通じて不動産関連のリスクを小口化し広く分散化させることが経済にとって良いことであると言えるレベルまで、現実のリスクマネジメントの方法論や手法は発展していないのではないか?という漠然とした懸念は依然残る。
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