Friday, March 26, 2010

[Book Review] Diary of a Hedge Fund Manager: From the Top, to the Bottom, and Back Again

"Being right early is called being wrong"


☆☆☆
投資銀行とヘッジファンド数社での経験を通じて、新たに独自のマクロ視点での投資調査会社Research Edge(現在はHedgeyeに社名変更)を立ち上げた著者が、カナダのオンタリオ州に生まれアイスホッケーに明け暮れた自らの生い立ちからヘッジファンドでの日々、そして最後に2007年秋に解雇となった経緯をその世界に身を置いた者として内側から語ったもの。投資銀行及びヘッジファンド内での group thinkがバブル末期を煽っていった状況や、特にヘッジファンドでの最後の数ヶ月は、著者自らの投資に対する見方・判断からマーケットのクラッシュは近いと主張したことに対する、周囲の強気筋からの変人扱いや蔑み、そして、予測のタイミングが若干早過ぎたこともあり、短期的にはトレーディングのパフォーマンスが出ずに解雇に繋がった経緯、そして、その後も独自の視点や判断をベースに情報を発信し続け、やがて投資調査会社の立ち上げ、マーケット暴落を予測する様子を描いている。また、そうした経験を通じて、他人とは異なる独自の視点を持つことが如何に大切かを語っている。

10年程前にアメリカの投資関連か何かのTVコマーシャで、テニス・プレーヤーが相手のサーブが打ち込まれてから数秒後に(既にボールは自分の横を過ぎ去った暫く後に)、完璧に美しいフォームで相手のサーブを打ち返すようにラケットを振るシーンが映し出され、そこにTiming is everythingというナレーションが入るというものがあった。アメリカが住宅バブルの状況にあることは、1980年代後半の不動産バブルを経験した日本人の眼には2000年代の前半には明らかであったと思うし、それが「いつか」崩壊するであろうことも見通していたと思うが、「いつかそのうち」ではなく「具体的にいつ」かが当たらないとカネにはならない。即ちTiming is everythingであり本書にもあるBeing right early is called being wrongということである。

Sunday, March 21, 2010

[Book Review] 「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書)




☆☆☆
全般的には、なかなか為になる本であるが、一点気になったのが、本書の冒頭部分(pp.31-32)で著者はDruckerを引き合いに出しながらも、「利益を出すことが事業の目的ではなく条件である」ということが、「社会貢献」にどうやって結びついているのかを、必ずしも上手く説明していない。
「利益を出すことは目的ではなく事業存続の為の必要条件である」というのは資本主義の論理的帰結であると思う。事業成功の尺度(return)をP/L上の利益で捉えようがcashflowsで捉えようが(長期的には両者のレベルは収斂する)、returnが出ていないということは、投資に対して見返りが無いということであり、(道路や通信インフラといった公共財等の場合を除けば)そのような投資は社会全体で見れば資源の無駄使い(社会に貢献していない)ということになる。そしてreturnの出ていない事業への投資はreturnが出ている投資に再配分されるべきなはず。そういう意味で儲かっていない事業には存在意義はないのである。とても明々白々なことだと思うが....。

Peter Druckerも著書“Management”の”6. What Is a Business?”という章で以下のように述べている。
Profit and profitability are, however, crucial – for society even more than for the individual business. Yet profitability is not the purpose of but a limiting factor on business enterprise and business activity. Profit is not the explanation, cause, or rationale on business behavior and business decisions, but the test of their validity. …….….Actually, a company can make a social contribution only if it is highly profitable…..

Sunday, February 7, 2010

[Book Revew] Talent Is Overrated: What Really Separates World-Class Performers from Everybody Else

才能ではなく“deliberate practice”が世界の超一流をつくる

☆☆☆☆
本書のテーマは、題名の通り、スポーツ、音楽、ビジネス、学問(例えばノーベル賞受賞者)等の領域を問わず、世界の超一流とそれ以外の人々の違いは一体何から生じるのか?というもの。それで、差異を生じさせるものは生来の才能といったものではなく(だから題名が”Talent is overrated[才能は過大評価されている]”となっている)、”deliberate practice”(意図的・計画的な練習)によるところが大きいと論じている。”deliberate practice”とは、特定の分野で自分が上手く出来ない部分に焦点を当てて、それを繰り返し何度も練習し、且つ練習の出来具合に関してタイムリーにフィードバックが得られるような環境で行われる(通常はかなりの苦痛を伴う)高レベルのものを指す。
因みに、本書よりも1ヶ月程後に出版されたMalcolm Gladwellの“Outliers: The Story of Success” (邦訳「天才! 成功する人々の法則」)で”The 10,000-hour rule” (1万時間ルール)というものが物事を極める迄に費やさなければいけない時間の目安として紹介されているが、本書では、その辺りも詳述されている。
では、とてつもなく多くの時間をdeliberate practiceに費す原動力乃至は情熱というものは、生来の素質なのか?それとも徐々に当事者個々人の中でdevelopされていくものなのか?といえば、これまた後者であるとのこと。但し、超一流の人達も、最初は親の意向で嫌々始めたのが、他人からの賞賛、家族やコーチの支援、同じ分野での超一流の人との出会いによる触発、等々種々の出来事を通じて、いつしか自らの内側からの強烈なモチベーションが醸成されていくようなケースが多いらしい。これらの種々の様々な要因が重なり合っていく効果をMultiplier effect (経済学では「乗数効果」のことだが)と称している。
また、こうした超一流になっていく環境を、例えばビジネスの世界では、どのように組織制度のデザイン面で参考にしていくべきか、といった点にも言及している。
自らのキャリア開発及び組織での人材開発の観点で参考になる。
p.s.余談であるが島田紳助著の「自己プロヂュース力」などを読むと、かつての紳助・竜介の漫才などは、まさにdeliberate practiceの賜物であることがわかる。

Sunday, January 24, 2010

[Book Review] A Practical Guide to Software Licensing for Licensees and Licensors

実務的で解り易く、licensors/licensees双方の視点から留意点を記載


☆☆☆☆
自分のようなfinance関係の人間でも、software licenseに関しての基本的な知識が無いと、legalやtaxの人間との話ができなかったり、deal structuringの際にも支障をきたすことがあるので、気になった契約条項の背景や考え方等を知る目的で辞書のような感覚で使おうと思い購入した。

最初の250ページ程度がトピック毎の説明で、残りは注釈付きの契約書を含めた各種サンプル契約書といった構成になっているが、
・各トピックの説明は実務的で分り易く、
・前半の個々のトピック毎の説明箇所と、後半の注釈付きサンプル契約書間でcross referencesが施されており便利、
・注釈付きサンプル契約書の注釈はかなり丁寧、
・licensors/licensees双方の視点からの記述はバランスがとれており、契約の相手側の立場ならどういうことを考えるのか?ということも解って有益、
といった点で優れていると思う。

Sunday, November 22, 2009

[Book Review] This Time Is Different: Eight Centuries of Financial Folly

”There is nothing new except what is forgotten”- Rose Bertin


☆☆☆☆
最終章(第17章)が収められている第四部のテーマ”What have we learned?”の下に、このローズ・ベルタン(ルイ16世の王妃マリー・アントワネットに仕えたデザイナーらしい)の言葉が添えられているのがユーモラスである。

タイトルの”This time is different”「今回は違う」は勿論反語的に使われており、好景気の時でも今回のような未曾有の世界経済危機からの脱却の際でも「今回は(これまでとは)違う」という種々のもっともらしい理由が喧伝されるが、膨大なデータに基き過去数世紀に渡る世界の債務不履行や金融危機の歴史を紐解いてみると、「今回は違うシンドローム」の信憑性は疑わしく、世界経済の先行きを楽観するのは全く時期尚早であり、むしろデータから読み取れる「歴史は繰り返す」ということを充分に念頭においておく必要があると本書は警鐘している。

その例として、14章に纏めてある興味深い数字を幾つか紹介すると(対象期間は殆どが第二次世界大戦後の世界中の経済危機で一部戦前の大恐慌時のケースを含む。数字は経済危機発生前のピーク時と危機発生後の底値の差を示したもの)、
■住宅価格は平均すると6年間に渡り下落し平均下落率は▲35.5%
■株価下落は平均で3.4年間に渡り平均下落率は▲55.9%
■失業率は平均で4.8年間に及び平均上昇率は+7%

また、政府債務といえば、これ迄は、データの入手が極めて困難であるという事情もあってか、対外債務にのみ焦点が当てられることが多かったようであるが、著者達は世界各国の国内の債務状況に関するデータも整理したうえで、これらの影響は無視できないとしている。
非常に広範囲で長期に渡るデータを整理したうえでの実証研究であり読み応えがあると共に、膨大なデータから過去を検証して、そこから読み取れることをベースにした謙虚な提言の書である。

Sunday, August 30, 2009

[Book Review] Exotic Preferences: Behavioral Economics and Human Motivation

人間の心の奥底を捉える深い考察



☆☆☆☆
行動経済学の第一人者Loewenstein教授が、過去に発表した自らの学術論文のうち20本余りを集めたもので、各論文の最初の部分では、論文を執筆した背景や意図を紹介している。これらの論文のテーマとなっているのは、個々人の好み・選好というのは、どのように形成されるのか?それらは予測可能なのか?どの程度理性ではなく感情に左右されるのか?といったことである。
例えば最初の論文では、世界的な登山家や探検家(エベレスト、南極等)といった人達を取り上げ、何が彼らを、遭難・凍傷・生命の危機と隣り合わせのハイリスクで想像を絶する過酷な自然環境への挑戦に駆り立てるのか?を登山家・探検家が書いた書物を紐解きながら考察している。
私自身は経済学者でも心理学者でもない一介のビジネスパーソン故に、諸学説の発展や相互の関係といった点には興味も無いが、人間の心理の奥底をえぐるような本質的な考察は読んでいて非常に興味深い。最近では、行動経済学の分野では、種々の研究成果を私のような一般の読者にも解り易く面白く紹介した一般書物が出版されており(例えば、Dan Ariely著”Predictably Irrational”邦題:「予想どおりに不合理」)、


それらは非常に有益であることに異論はないが、本書のような第一人者の一つ一つのテーマで掘り下げて書いた論文は、素人には取っ付き難いながらも、深い考察を読み取ることが出来て違った楽しみがある。

Sunday, March 1, 2009

[Book Review] Outliers: The Story of Success

成功要因=成功者自身の周辺環境や時代背景が幾つか重なった結果....




☆☆☆☆☆

これまで成功と言うモノは、個人の資質や努力といった面に多くの焦点を当てて語られることが多かった。
本書で著者は、成功した人自身の努力の程度もさることながら、その本人の生まれた年、祖先の出身地、人種や気質、両親の職業、社会制度や法律の制定された年等々、本人を取り巻く周辺環境や時代背景に視点を拡げて観察している。そして、成功というのは、時代背景や環境等、各々の要因を個別に見れば決して重要乃至は決定的とは思えないような、小さな幸運・偶然・機会が幾つも重なった上に成り立っているという事実を、幾つかの例(1月生まれのアイスホッケー選手が多い理由、ビートルズが有名になった理由、ビル・ゲイツが成功した理由、ユダヤ系に成功した企業のtake-over関連の弁護士が多い理由、アジア系の学生が一般的に数学が得意な理由等)を挙げて述べている。逆に、各々の要因を個々に見れば全く致命的ではないような些細な過失や不運が幾つも重なると大惨事(飛行機事故や原子力発電所の事故等)に至る原因となり得ることも指摘している。
著者の本はいつも、これまでは考えても見なかったような視点から、社会現象や物事の本質を解明するという部分が非常に斬新で面白い。

Sunday, January 18, 2009

[Book Review] The World Is Curved: Hidden Dangers to the Global Economy

面白い部分もあるが、冗漫で具体的処方箋に乏しい


☆☆☆

Thomas FriedmanのThe World Is Flatは主にテクノロジーや物流等実体経済の発展が世界をフラットにしている状況を描写したものであったのに対して、金融面では地平線の彼方は良く見えず様々な危険が潜んでいるという意味でThe World Is Curvedという題名となったようだ。
サブプライムに端を発して経済が急激に失速するまでの過去四半世紀は、資本と貿易のグローバリゼーションの進化と旺盛な企業家精神の発揮を両輪とした経済成長の恩恵を、ほぼ世界中の国々が享受した時代であった。現下の日々深刻化する経済状況化では、規制強化や保護主義の行き過ぎや、貧富の格差の増大に伴う階級間闘争といった国内外の懸念材料が強まってくるが、それによってグローバリゼーションを逆行させ企業家精神を殺してしまうようなことがあってはならず、今こそ政官民の卓越したリーダーシップを以て事にあたらねばならない、といった(煎じつめれば当たり前の)事を述べている。
民主主義や金融の透明性の面で十分とは言い難い国々の潤沢な外貨準備高をベースとした国策を背負った政府系投資ファンドの投資意図や、需給バランスを無視したような世界的な製造業の過剰生産能力と原材料の高騰の行く末といった部分等に関する記述は興味深い。一方で、本書の文脈とは余り関係ないと思われるような著者個人の種々の経験談に多くのページが割かれ、各章毎の内容と全体が余り上手く繋がっていないような印象を受けるうえに、数字は多く出てくるのに表やグラフが一つも無く数字と論理展開の整合性がとれているのか否か解らないような構成で、問題解決の為の具体的処方箋(how?)の提示が殆ど見られない雑誌の記事が冗漫になったような印象の残る本という感想は否めない。・・・にも関わらず、多くの著名な政治家・ポリシーメーカー・経済学者等の賛辞と推薦文が記載されているのが謎である。

Sunday, September 28, 2008

[Book Review] The Subprime Solution: How Today's Global Financial Crisis Happened, and What to Do About It

再び「必要は発明の母」となって経済社会は発展するか?


☆☆☆☆

サブプライム危機に短期的には救済で対応し国民心理の冷え込みが経済全体に及ぼす甚大なインパクトを回避し, 長期的にはデリバティブ等の金融技術の不動産市場への適用によるリスクの小口化・分散化を図り、持家関連の各種保険制度の整備拡充といった社会インフラとしての金融制度を充実発展させて、その効果を国民全体が享受できるようにすること(financial democracy)であると説く。
1929年の世界恐慌後に発明(創設)された住宅ローン関連の種々の制度、預金保険機構、証取委員会の設置といった(現在では当たり前と思われているような)社会インフラの整備は、当時の状況からは非常に大胆な発想だったが、現下の危機に臨むに際しても同様に「必要は発明の母」としての想像力豊かで大胆な発想が求められており、著者の提言は長期的施策の中身の一部を構成する。関心させられるのは、金融技術の進歩に対する、この確固たる揺ぎ無い信念である。
一方で、私は金融の門外漢で見識も持ち合わせていないが、長期的施策の前提となるべき部分では、(本書151ページで引用されている論文からも) デリバティブが資産市場のボラティリティを縮小させるということは必ずしも実証研究では(否定的結論は出ていないものの)総じて肯定的には証明されている訳ではない様であるし(但し流動性面では効果はあるらしい)、不動産関連市場でのデリバティブの推進が不動産バブルの発生を回避することに繋がるのかどうかは、デリバティブが更に進んだ株式市場でも依然バブルは発生していることを考えると効果の程については良くわからない。また、そもそもデリバティブを通じて不動産関連のリスクを小口化し広く分散化させることが経済にとって良いことであると言えるレベルまで、現実のリスクマネジメントの方法論や手法は発展していないのではないか?という漠然とした懸念は依然残る。

[Book Review] Predictably Irrational: The Hidden Forces That Shape Our Decisions

人間というのは...なんとも非合理的....



☆☆☆☆☆
所謂一般読者向けに経済学と心理学に跨る領域を扱う行動経済学の種々のリサーチ結果から、一見以外な人間の非合理性を焙り出す面白い内容になっている。例えば、
・全く関係ない数字を、ある商品を買っても良い価格判断のベースにしてしまったり、
・数種類のオファリング価格の中にダミーが入っていると無意識にその価格に引っ張られた判断をしてしまったり、
・無料と1円の差異が判断に及ぼす心理的インパクトはとてつも無く大きかったり、
・社会規範(social norm)と市場規範(market norm)の文脈を間違えて、互恵といった考え方に代表される前者の文脈で対処すべきところに、後者のお金の概念を持ち込むと人間関係、企業の消費者対応や従業員対応等々あらゆる面で総スカンを食うとか、
・人間は冷静な状態と興奮した状態では好き嫌いや善悪の許容度といった点での判断に大きな差が出てしまうとか、
・自分が所有している物の価値測定に際しては感情移入をしてしまう結果とてつもなく過大評価をしてしまう、
等々、多くの意外性を持ったリサーチ結果から、人間の判断というのは、これまでの標準的な経済学が前提としているような合理的なものではなく、非合理的なことが多く、且つその非合理性はランダムで無分別なものではなく、システマチックで予測可能なものである(≒人間は首尾一貫して非合理的)なのであると説いている。人間とはそういうものだということを知っておくだけでも、いろんな間違いを回避することには役立ちそうである。
本書と殆ど同じ領域を扱っている本として”Sway: The Irresistible Pull of Irrational Behavior”も読んでみたが、どちらか1冊読むのであれば、内容の充実度から本書(Predictably Irrational)をお勧めする。