Sunday, September 28, 2008

[Book Review] The Subprime Solution: How Today's Global Financial Crisis Happened, and What to Do About It

再び「必要は発明の母」となって経済社会は発展するか?


☆☆☆☆

サブプライム危機に短期的には救済で対応し国民心理の冷え込みが経済全体に及ぼす甚大なインパクトを回避し, 長期的にはデリバティブ等の金融技術の不動産市場への適用によるリスクの小口化・分散化を図り、持家関連の各種保険制度の整備拡充といった社会インフラとしての金融制度を充実発展させて、その効果を国民全体が享受できるようにすること(financial democracy)であると説く。
1929年の世界恐慌後に発明(創設)された住宅ローン関連の種々の制度、預金保険機構、証取委員会の設置といった(現在では当たり前と思われているような)社会インフラの整備は、当時の状況からは非常に大胆な発想だったが、現下の危機に臨むに際しても同様に「必要は発明の母」としての想像力豊かで大胆な発想が求められており、著者の提言は長期的施策の中身の一部を構成する。関心させられるのは、金融技術の進歩に対する、この確固たる揺ぎ無い信念である。
一方で、私は金融の門外漢で見識も持ち合わせていないが、長期的施策の前提となるべき部分では、(本書151ページで引用されている論文からも) デリバティブが資産市場のボラティリティを縮小させるということは必ずしも実証研究では(否定的結論は出ていないものの)総じて肯定的には証明されている訳ではない様であるし(但し流動性面では効果はあるらしい)、不動産関連市場でのデリバティブの推進が不動産バブルの発生を回避することに繋がるのかどうかは、デリバティブが更に進んだ株式市場でも依然バブルは発生していることを考えると効果の程については良くわからない。また、そもそもデリバティブを通じて不動産関連のリスクを小口化し広く分散化させることが経済にとって良いことであると言えるレベルまで、現実のリスクマネジメントの方法論や手法は発展していないのではないか?という漠然とした懸念は依然残る。

[Book Review] Predictably Irrational: The Hidden Forces That Shape Our Decisions

人間というのは...なんとも非合理的....



☆☆☆☆☆
所謂一般読者向けに経済学と心理学に跨る領域を扱う行動経済学の種々のリサーチ結果から、一見以外な人間の非合理性を焙り出す面白い内容になっている。例えば、
・全く関係ない数字を、ある商品を買っても良い価格判断のベースにしてしまったり、
・数種類のオファリング価格の中にダミーが入っていると無意識にその価格に引っ張られた判断をしてしまったり、
・無料と1円の差異が判断に及ぼす心理的インパクトはとてつも無く大きかったり、
・社会規範(social norm)と市場規範(market norm)の文脈を間違えて、互恵といった考え方に代表される前者の文脈で対処すべきところに、後者のお金の概念を持ち込むと人間関係、企業の消費者対応や従業員対応等々あらゆる面で総スカンを食うとか、
・人間は冷静な状態と興奮した状態では好き嫌いや善悪の許容度といった点での判断に大きな差が出てしまうとか、
・自分が所有している物の価値測定に際しては感情移入をしてしまう結果とてつもなく過大評価をしてしまう、
等々、多くの意外性を持ったリサーチ結果から、人間の判断というのは、これまでの標準的な経済学が前提としているような合理的なものではなく、非合理的なことが多く、且つその非合理性はランダムで無分別なものではなく、システマチックで予測可能なものである(≒人間は首尾一貫して非合理的)なのであると説いている。人間とはそういうものだということを知っておくだけでも、いろんな間違いを回避することには役立ちそうである。
本書と殆ど同じ領域を扱っている本として”Sway: The Irresistible Pull of Irrational Behavior”も読んでみたが、どちらか1冊読むのであれば、内容の充実度から本書(Predictably Irrational)をお勧めする。

[Book Review] Sway: The Irresistible Pull of Irrational Behavior

いとも簡単に振れてしまう判断....



☆☆☆
Swayとは人間の意識の中に潜み合理的な行動を妨げる隠れた力のことで、一部を紹介すると本書では以下のような概念を興味深い例示で説明している。
Loss aversion(損失に対して過剰反応をし、これを回避する為に合理的には想定できないようなことをしでかす)
・ KLMの安全責任者であった機長が時間の遅れを取り戻そうと飛行機の離陸時のルール無視して引き起こした狂気の沙汰とも言える大惨事
・ 損失を確定せずに、いつか相場が反転すると期待して損切りできない投資家の心理
・ 20ドル紙幣のオークションに204ドル迄値が競り上がってしまう不思議
Value attribution(客観的なデータにも基かず直感をベースに物事を判断する)
・ 世界的なバイオリン奏者が地下鉄のホームでジーンズに野球帽といった格好でで演奏をしていても、誰も気に留めずに通り過ぎてしまう(奏者の身なり服装から有名な音楽家だとは誰も思わない→演奏している音楽のクオリティや技術も大したことないと判断してしまう)
・ 値段を上げたら急に商品が売れ出した(ものの価格を見て「高い=高級品に違いない」と判断する)
・ 同じコンサートでも高い金を払って入場した人の方が満足度が高い
Diagnosis bias (人、モノ、考え等に対して最初に下した判断に囚われ、後に、この先入観に反する客観的な情報が提供されても、従前の判断を変えることができない)
・ NBAバスケットボール選手の試合出場時間は当該選手がドラフト何位で指名されたかとの相関が圧倒的に強い(ドラフト順位が高ければ良い選手のはずという先入観が後々まで影響する)
・ 初めて会う人の性格等につき事前に知らされたイメージ(それが事実であろうが無かろうが)を払拭することができない
…..等々、興味深い例をもとに人間の判断がいかに非合理的な方向に振れるかを説明している。”Influence” (Robert Cialdini著)や”Predictably Irrational”(Dan Ariely著)と内容的に共通する部分が多い。

Sunday, May 25, 2008

[Book Review] influence: The Psychology of Persuasion

An outstanding account about how the human mind is influenced



☆☆☆☆☆
We are all consumers of goods and services in some way or another, and I am glad I have read this…. hopefully I should have done so much earlier, but certainly better late than never. The author discusses how the psychological mechanism works in making decisions, saying “yes” to a request, how our decisions are influenced/swayed, and how we can prevent ourselves from the situations where we likely end up making unwanted decisions and/or being exploited by ill-intended profiteers. In so doing, the six underlying principles: reciprocation, commitment/consistency, social proof, liking, authority, and scarcity, are introduced with ample examples from various intriguing researches, and how these potent influencers can be commissioned by those who want us to consciously or unconsciously comply with their requests. Used with due professional ethics, the six principles can be very effective marketing tools, but we as consumers would be certainly better equipped with understanding of the principles when dealing with someone who tries to pull a trick or two and manipulate our attitudes and behaviors.

Saturday, March 29, 2008

[Book Review] Plight of the Fortune Tellers: Why We Need to Manage Financial Risk Differently

Risk management is about making decisions under uncertainty




☆☆☆☆☆
The main theme is that risk management is not about measuring risk, or assessing probabilities, but it is about making decisions under uncertainty. The author says that the existing framework of risk management, which is heavily based on “frequentist” approach to probabilities (i.e. repeatability under identical conditions, weak prior beliefs, etc.) does not necessarily serve for decision-usefulness associated with managing risks; “subjective” (Bayesian) probabilities tend to be better suited to the purposes. Focusing on the outcome of decisions relieves us from dogmatic probabilists and allows us eclectically to arrive at the best prediction we can, using whatever tool we have at our disposal. While the author’s argument appears to make a lot of sense, the Bayesian probabilities brings in subjectivity such as prior information/knowledge, which in itself seems helpful, I wonder what if we are not confident of such prior information, as we cannot know what we cannot anticipate (i.e. an “unknown unknown”: an uncertainty that is unanticipated)? Or put it differently, if we already have had good, reliable prior information about whatever the risk we attempt to assess, then, we would not have much to worry about to begin with, I presume….. Well, we probably should not try to rely on statistical approach to such an extremely high percentile to be considered effectively meaningless (I hasten to throw in my disclaimer here that I am not proficient enough in statistics to discuss the matter in detail!)
Those who have found Nassim Nicholas Taleb’s “The Black Swan” and “Fooled by Randomness” fascinating would be intrigued by this timely, engaging , and highly accessible account, which provides not only professional risk managers but also amateur investors like me with numerous insights.

Sunday, February 17, 2008

[Book Review] The Wisdom of Crowds

Wisdom of crowds(集合知)の有効性に関する豊富な事例が示唆するところは極めて大きい!



☆☆☆☆☆

ここ数ヶ月の間に読んだマネジメント、統計、投資関連の複数の本(例えば“The Future of Management”[Hamel], “The Upside”[Slywotzky], “What Were They Thinking?”[Pfeffer], “Expert Political Judgment”[Tetlock], “Super Crunchers”[Ayer], “Black Swan”[Taleb],等)で幅広く引用されており、気になっていた本書を遅まきながら読んだ。
『一部の専門家やプロの判断よりも、知識や経験のレベルや領域もそれぞれの(専門家も含む)多くの人達による集合知(或いは全体の平均値)の方が正しいことが多い』という、ともすれば直感的には「えっ?ホント?」と疑わしく感じることを、多くの事例と実証研究を紹介しつつ説いている。但し、集合知が有効に機能する為には、とりわけ構成員の意見が多様であり(diversity)且つ他人の意見に影響を受けない (independence)状況が必要である旨強調している。
本書で取り上げられている例は、動物の体重や瓶の中のjellybeanの数、消息不明になった潜水艦の位置の推定から始って、プロスポーツの勝敗や大統領選候補者の指名予測、ハリウッド映画の興行成績の予測、自動車エンジンの発達等イノベーション、スペースシャトル事故、税金、株価形成、組織運営や経営の意思決定、等実に広範囲に亘る。
個人的には、なぜ本書が近年のマネジメントの方法論、とりわけ組織運営・リーダーシップ・イノベーション分野でのアプローチに大きな影響を及ぼしているのかにつき、大いに納得すると共に、experimental economics(実験経済学)やシミュレーション等が意思決定に応用されていく可能性に期待できると感じた。巻末注の関連文献も興味深いものが多い。

Monday, February 11, 2008

[Book Review] What Were They Thinking?: Unconventional Wisdom About Management

マネジメントの種々の方法論を「常識に対する斬新な眼力」で検証



☆☆☆☆
前著と趣の似た内容であり、マネジメントに関する種々の方法論や考え方を、主に人間の感情や行動原理の観点から考察することによって、それぞれが本当に有効な方法論なのか否かを検証している。
例えば、経営不振に陥った際にリストラ、給与・ベネフィットのカットといった施策を実行することは、経営陣に対する不信感を強め従業員の貢献意欲を減じさせるだけで効果は出ない、といったことに始まり、就業時間内に私用をおこなっている社員を監視しても殆ど意味はない、確定拠出型ベネフィットの経済合理性は疑問、組合が持つ経営面でのプラスの効果、等々が論じられている。これらの議論のベースにあるのは、社員とマネジメント間の信頼関係(或いは norm of reciprocity互恵性/返報性の規範)を損なうような施策が有効に機能することはない、という社員を中心に据えた考え方である。
著者が明確に言及している訳ではないが、この延長線上には、社員個々人が主体的に取り組み集合知を発揮するコミュニティに似た組織というのが理想的な組織として想定されるであろうし、また、そういう組織こそが、社員から継続的に最大限の力を引き出せる組織であり、更に顧客志向という観点で言えば「ES (employee satisfaction)なくしてCS (customer satisfaction)なし」といった考え方にも通じるのだと感じた。このように捉えるとWeb 2.0や ”The Wisdom of Crowds” (James Surowiecki著), “The Future of Management” (Gary Hamel著)等で述べられているテクノロジー・社会・マネジメントの進化の底流にあるものを多少なりとも関連付けて見えるように思う。

Friday, January 18, 2008

[Book Review] 21世紀の国富論

全体的に捉えどころが無く、会計に対する断罪は認識違いで論理は逆さまでは…?

☆☆

あるコピーライターとの対談を読んで面白そうだと思い本書を読んでみたが、いきなり第1章から、必ずしも論理的で正しいとは思えない認識に基づく内容には失望した。例えば「行 き過ぎた時価会計」が短期志向の経営につながった等々諸悪の根源のように断罪されているが、これは現象の表面的な捉え方であり、会計に対する正しい認識ではないと思うし、論理が逆さまではないかと感じる。B/Sはある一時点でのストックを測定し、P/Lは2つのB/S時点間のフローであることは当たり前であるが、その論 理的帰結は、時価でB/Sを測定しようとすれば期間フローとしてのP/Lは変動しゴミ箱になるということで、これを承知で過去30年以上に渡って推進してきたの がアメリカ会計学会を中心とするasset-liability approachであり、これは会計として正しい進化の方向だったと思う。会計は正しくB/S重視の方 向に進化してきたのに、レベルの低い投資家やアナリスト達が依然ゴミ箱としてのP/Lの利益乃至は分子にP/Lの利益を使ったROEなどの時代錯誤的な指 標でモノを見ているところにこそ問題の本質が在るのである。一方、会計の進化に則った意味のある指標とはB/Sとキャッシュフローの組み合わせ(例えば総資産 営業キャッシュフロー率とか)になるべきだというような部分には言及していない。会計と資本市場に関して、著者の着眼点をスタートにするなら、道具としての会計は進化してきたが、 道具の使い手(投資家やアナリスト)のレベルが進歩していないが為に、資本市場は混乱し企業経営に悪影響を及ぼしている、とでも言うのが論理的な立論の仕 方だと思う。
本書から会計・資本市場・企業経営を関連させて言及した部分を除けば、技術の未来に関する考察等有益な部分もあるが、全体的には論点が拡散した、捉えどころの無い本という印象を拭えない。

Sunday, January 13, 2008

[Book Review] The Upside: The 7 Strategies for Turning Big Threats into Growth Breakthroughs

「リスクマ・ネジメントこそが戦略である」という切り口


☆☆☆☆

冒頭5ページに出てくる“Strategy is risk management”という表現が本書の一貫したテーマである。ここで言うリスクマネジメントとは、システム、IT、災害、内部統制といったオペレーショナルなものを対象としているのではなく、社運を賭けたプロジェクト(新製品開発等)、顧客維持、競争環境の大きな転換期、明らかに規模の異なる巨大な競争相手、ブランド力の低迷、業界全体の収益環境の悪化、成長鈍化、といった事柄をリスクと捉え、これらに対して、どうやって効果的な予防策を講じてリスクを機会に転換していくか?という内容を扱っている。
中でも個人的に特に興味深かったのは、技術革新や既存の儲ける仕組みが転換期を迎え競争環境が大きく変化しそうな状況下で、どのような舵取りをしていくのかという部分である(第3章)。発生した事実に対して後付けのもっともらしい理由(因果関係)をつけたがる人間の本性(歴史解釈でも為替や株の相場でも然り)を理解したうえで(N.N. Talebが”The Black Swan”で言及しているempirical skepticismにも通じる部分がある)、「架空の歴史」(実際に起こった事とは別にどういう展開が有り得たか?その際に、どの時点で意思決定がどのように違っていたら、別の展開に為り得たか?等々)を想定してみて、更に同様に将来有り得る幾つかのシナリオを想定してみることによって、必要に応じて double-betting(同時に複数の可能性に賭ける)をすることが必要であると説く。これは、マネジメントやリーダーシップ理論で一時礼賛された (例:James Collinsの著書)所謂一点集中型の「ハリネズミ型」ではなく、「キツネ型」の方が環境適応力に優れており成功する確率が高いという、その後の実証研究から言われていることにも相通じる部分がある。

Sunday, December 16, 2007

[Book Review] The Future of Management

マネジメント(経営管理)の方法論そのものに関するイノベーションの必要性を論じた意欲作

☆☆☆☆☆
過去100年くらいの間に、テクノロジーが非常に大きな進歩・発展を遂げたことは周知の事実であるが、さて、マネジメントの方法論については同様に大きなイノベーションはあっただろうか?著者によれば、20世紀初頭のF.W.テイラーの科学的管理法とM.ウェーバーの官僚組織のコンセプトは、(それ以前には存在しなかった)大企業のマネジメントを可能にしたという意味で大きなイノベーションであったが、それ以降は、同じようなレベルのイノベーションは起こっていない。また、我々が今日でも依然として1世紀前と同様の経営諸課題に頭を悩ましているという事実は、技術革新の進歩の度合いと比較すると、マネジメントにこそイノベーションが必要であることは明らかであると主張する。そして、Whole Foods Market, W.L. Gore (ゴアテックス・ブランドの製造メーカー), Googleという革新的なマネジメントを実践する3社を例示しつつ、将来のマネジメント手法とは如何なるものなのかを論じる。
マネジメントに関する既成の固定観念を前提の部分から疑ってみることでイノベーションの本質に迫ることの大切さを強調し、如何に従業員を解き放ちベスト・パフォーマンスと創意工夫を継続的・持続的に引き出し(Making innovation everyone’s job, everyday.)、且つ同時に自発的なコミットメントと規律の効いた組織にできるか?(即ち、マネジメントのイノベーションとはマネージする事を減らすこと) がひとつの重要なポイントであり、これこそが真の持続的な競争優位の源泉と為り得る要素である説く。
著者自身も断っている通り、本書は将来のマネジメント手法の進化に関する明確な姿や解答を提供するのではなく、マネジメント手法のブレークスルーを起こすべく、考えるきっかけや材料を提供することを目的に書かれた本である。非常に意欲的で刺激的な内容である。