予期せぬ出来事(Black Swan)に関する、深く広範囲で刺激に満ちた考察
☆☆☆☆
トレーダーである著者が前作Fooled by Randomnessの内容を更に深耕・発展させて、世の中は標準的な統計学の正規分布曲線(normal curve)で表現されるよりも、もっとfat-tailで予期せぬ出来事(randomness/Black Swan)に遭遇する可能性が高いことを、様々な分野の幅広い話題を縦横無尽に駆使して語る力作。
また、数学モデルの精緻化と標準的な統計学をベースとして「現実を説明できる理論」ではなく「首尾一貫した理論を構築するのに都合の良い諸前提 (それが現実から乖離していようが関係ない)を設定し、出来上がった理論に則って現実を解釈しようとする、欺瞞に満ちた科学」としての economics(特に新古典派)やfinance理論を徹底した懐疑的経験主義(skeptical empiricism)によって反証している(但し、だからと言って統計学がまやかしだという理由にはならないと思うが...)。
更に、歴史の見方についても、同様のskeptical empiricismに根差しており、歴史に関する記述というのは、その一瞬一瞬を同時代で描いていく物ではなく、所詮は「発生した事実を、後から振り返って、ある文脈で解釈すること」であり、常に後講釈による歪みや曲解(retrospective distortion)を孕み、これがrandomな出来事が発生する確率を過少に評価することにも関係することを示唆している。これは卑近な例で言えば、過去の相場のグラフを「分析」してマーケットの動きに関する後講釈の説明はできても、そこから将来のrandomな出来事を予想できない、ということにも通じると思う。読みながら非常に考えさせられる本である。
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