「リスクマ・ネジメントこそが戦略である」という切り口
☆☆☆☆
冒頭5ページに出てくる“Strategy is risk management”という表現が本書の一貫したテーマである。ここで言うリスクマネジメントとは、システム、IT、災害、内部統制といったオペレーショナルなものを対象としているのではなく、社運を賭けたプロジェクト(新製品開発等)、顧客維持、競争環境の大きな転換期、明らかに規模の異なる巨大な競争相手、ブランド力の低迷、業界全体の収益環境の悪化、成長鈍化、といった事柄をリスクと捉え、これらに対して、どうやって効果的な予防策を講じてリスクを機会に転換していくか?という内容を扱っている。
中でも個人的に特に興味深かったのは、技術革新や既存の儲ける仕組みが転換期を迎え競争環境が大きく変化しそうな状況下で、どのような舵取りをしていくのかという部分である(第3章)。発生した事実に対して後付けのもっともらしい理由(因果関係)をつけたがる人間の本性(歴史解釈でも為替や株の相場でも然り)を理解したうえで(N.N. Talebが”The Black Swan”で言及しているempirical skepticismにも通じる部分がある)、「架空の歴史」(実際に起こった事とは別にどういう展開が有り得たか?その際に、どの時点で意思決定がどのように違っていたら、別の展開に為り得たか?等々)を想定してみて、更に同様に将来有り得る幾つかのシナリオを想定してみることによって、必要に応じて double-betting(同時に複数の可能性に賭ける)をすることが必要であると説く。これは、マネジメントやリーダーシップ理論で一時礼賛された (例:James Collinsの著書)所謂一点集中型の「ハリネズミ型」ではなく、「キツネ型」の方が環境適応力に優れており成功する確率が高いという、その後の実証研究から言われていることにも相通じる部分がある。
No comments:
Post a Comment