Sunday, October 9, 2005

[Book Review] The World Is Flat: A Brief History of the Twenty-first Century

フラット化する世界を多面的に活き活きと描写
(書評は増補版ではなく最初の版↓に対するものです)

(こちらは増補版及びその邦訳↓)



地球を小さく平らにしている(フラット化)大きなうねりを政治(ベルリンの壁崩壊に伴う東西世界分裂の終焉)、テクノロジー、ソフトウェア、アウトソーシング、インソーシング、物流網等の点から多面的に活き活きと描写している。例えば"The Only Sustainable Edge" (John Hagel、他著)で指摘されているoutsourcing/off-shoringは単なる低賃金の利用自体が優位性の源泉ではなく生産性や仕事のクオリティを追及した結果としての企業の行動現象であるといった面も、本書で明確に描かれている。
また、フラット化した世界での競争力の源泉は必然的に教育や異なるもの・新しいものに対する受容的な姿勢といったものであること。その一方で、こうした世界のフラット化と相克する、過激な(=新しい時代への適応不全を起こしている)宗教思想と、世界の進化を「侮辱・屈辱 (humiliation)」という捉える一部の人々の精神構造や、フラット化の阻害要因となる膨大な数の世界の貧困層底上げに向けての市場原理とプライベート・セクターを積極的に活用して成功している例の描写は非常に興味深い。
「ゆとり教育」という名の下に、世界の流れに逆行して競争力低下を招く愚作を展開した日本の過去20年余り(?)の教育改革(改悪)や、英語教育のレベルの圧倒的な低さに伴う世界とcollaborateする能力や受容性の欠如を考えると、フラット化した世界での日本の将来は余り明るいものではないと思わざるを得ないが、一方で、こういう世界に職業人個人としてどうやって対処していくか、また自分の子供をどうやって教育してあげられるのか、と考える多くの材料を提供してくれる。
文句なしに今年になってこれまでに読んだ中で最高の本です。
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【独り言】ところで、上記の書評をAmazon.co.jpに掲載したのが2005年10月9日。この書評の題を「フラット化する世界を多面的に活き活きと描写」とした。「フラット化する世界」と表現した書評は、それまでは無かったはず。それから半年以上が経ち翻訳版(増補版ではない最初のもの)の出版日は翌2006年5月25日。邦訳名「フラット化する世界」を見てビックリ。「おい、これは、オレの書評のパクリかよ...」翻訳者からも出版社からも特に連絡も無し...。