Saturday, July 31, 2010

[Book Review] The China Price: The True Cost of Chinese Competitive Advantage

China Priceの安さの原因を構造的に炙り出す



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・Complianceを遵守させつつ安値を求める→社員の勤務時間等に関する二重帳簿管理から、法的には会社として登録もされていない幽霊会社へのアウトソーシング等により低コストで対応。誰の為のコンプライアンスなのか?中国からソーシングする先進国企業のreputationを汚さないという意味でのrisk managementの観点からのCYA (cover your ass)的なコンプライアンス。だから、根本原因を直視して解決しようとしない。
・一方で中央政府が決める法規制を地方自治体は遵守することなく結果的に法は骨抜きになってしまっている。それは経済発展が各地方の評価尺度となっているので、その地域の企業の競争力を弱め、短期的に経済発展の阻害要因となり得るような法規制の遵守を徹底(law enforcement)させるようなインセンティブは地方自治体には無い。従い、ここに建前と実態の並存状況が生み出され、贈収・腐敗は構造的に発生する。
・違法な長時間労働及び賃金、危険で劣悪な労働環境、保険への未加入、事故や労働災害の頻発、劣質或いは有害な原材料の使用、有害物質や汚水汚濁の垂れ流しや環境への無配慮、といった結果としての現象は、上述のような構造的な社会の仕組みに原因があることを示唆している。そして、そういう部分を蔑ろにしたところで成り立っているChina Priceというのは、本当に安いのか?持続可能なのか?ということだろう。
・近年では、一方で労働者意識の高まり(ここ数ヶ月の各地でのストライキ等に関する最新の状況に関する秀逸な報道は、例えばFinancial Timesを参照。本書を読めば、現在起こっていることの背景もよく解る)、そして他方で一部の先進的な経営者による従業員の為の労働環境整備が離職率等を抑え品質やコストにも(追加コストほどではないものの)見返りがあることと、ソーシング元の先進国企業への価格転嫁及び選択的な受注といった形で状況は一部では改善も見られるようでもある。
・本書は、China Priceを可能としている実態と構造を炙り出し、その実態を知らしめるという点で重要な貢献をしていると思う。その結果、消費者が(下請け・孫受け等々まで含めて)法規制面・環境面等でコンプライアンスを遵守している企業からしか買わないし、その場合は少し値段が高くても受け入れる、という意識の醸成及びアクション(消費者の見識)が一定の社会的な力となってくれば、大きな改善が見込めるのだと思う。

因みに、既に日本語訳も出ているようだ。読んでいないので翻訳のレベルは知らないが、題名がイマイチではある。

Saturday, July 10, 2010

[Book Review] Crush It!: Why NOW Is the Time to Cash In on Your Passion

パーソナル・ブランディングをベースとした事業へのソーシャル・メディアの使い方



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Amazon.com (US)でreviewの数が400を超えていたので買ってみたが、既に邦訳も出ていることを知らなかった。英書は160ページ程度で直ぐに読めるコンパクトな内容ながら、著者が自らのワイン販売のビジネスで、いかにblog及びFacebookやTwitterのソーシャルメディアを使ってきたかを具体的に書いていて非常に解り易い。
YouTubeにはWinelibrary.comのvideo blog clipをはじめコンフェランス等でのスピーチ(パフォーマンス)が多数あるし、TEDでも15分程度のものが見れる。

[Book Review] Mindset: The New Psychology of Success

物事の捉え方(mindset)は生き方を変える


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Daniel Pink著"Drive"で紹介されている心理学分野の本のひとつ。煎じ詰めれば、人間が成功や成果を生み出すことに関する見方・考え方は、"fixed-mindset"に基づく人と"growth-mindset"に基づく人に大きく二分される。
前者(fixed-mind)は、人間の能力や才能といったものは生まれつき決まっているものであるという捉え方であり、従い、努力をしなければいけないのは能力・才能がないことの証であると共に、事がうまくいかないと、それは即ちその分野での自分の能力・才能の欠如を意味する。
一方、後者(growth-mindset)は、そうではなく、努力が人間の才能・能力を成長させるという見方である。
興味深いのは、両タイプのmindsetsの人間では、困難な状況に陥った際の対処方法が全く異なり、前者(fixed-mind)のタイプは、そもそも自らの能力・才能を否定されるような結果を招くようなことには着手したがらないので、新しいこと、難しいことにチャレンジしないという傾向があり、また、物事が上手くいかないと、そのことを自らの才能・能力の欠如であると捉え、自信喪失してしまい為す術を知らずに崩れていくことが多いのに対して、後者(growth-mindset)のタイプは、「何が悪かったのか?どうやれば上手くいくのか?」とポジティブに解決指向で対処する傾向が強く、その結果resilience(= the ability to become strong, happy, or successful again after a difficult situation or event)が高い場合が多いとのこと。
学校、スポーツ選手、仕事、親子関係、配偶者乃至は恋愛のパートナーとの関係等の面から、様々な調査研究の結果を紹介しつつ、いかにgrowth-mindsetであることが大切か、どうやってfixed-mindsetからgrowth-mindsetに変われるのか、等々をシンプルに且つ非常に強力なメッセージとして説いている。