Saturday, June 26, 2010

[Book Review] Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us

科学に基き「飴とムチ」原理の動機付けからの脱却を提言



☆☆☆☆
"A Whole New Mind"の著者Daniel Pinkがモチベーションを論じた新作(邦訳も近日中に出版される)。近年の種々のリサーチ結果からは、「飴とムチの原理」に基く動機付けは、ルーティン業務であればともかくも、コンセプトや創造性の必要な業務(著者流に言えば右脳型の業務)に於いては逆効果であることが証明されているにもかかわらず、ビジネスの世界を中心に、依然として旧来の動機付けの考え方(extrinsic motivation)が支配的であることに対して警鐘を鳴らすと共に、職場での動機付けの方法は学術的な調査結果を踏まえて、もっと人間の内部に本来的に備わっている動機付け(intrinsic motivation)に訴えかける方法、即ち autonomy (self-direction), mastery (complianceからengagementへの意識変化を通じた恒常的な向上心), purpose (人間の本質に根ざす意義・目的意識)を重視したものに変わっていく必要があると論じる。

この主張のベースとして、
・早くも1960年に、本質的にintrinsic motivationの重要性を主張したDouglas McGregor教授のX理論・Y理論を紐解き(私も25年くらい前に大学の「経営組織論」で習ったのを覚えています。懐かしい)、更に、
・また、過去100年くらいの間に、テクノロジーが非常に大きな進歩・発展を遂げたことは周知の事実であるが、マネジメントの方法論については同様に大きなイノベーションは生じておらず、マネジメント理論にこそイノベーションが必要である事を論じると共に、如何に従業員を解き放ちベスト・パフォーマンスと創意工夫を継続的・持続的に引き出し(Making innovation everyone’s job, everyday.)、且つ同時に自発的なコミットメントと規律の効いた組織にできるか?(即ち、マネジメントのイノベーションとはマネージする事を減らすこと)を実現することが肝要であると主張したGary Hamelの"The Future of Management"(邦訳「経営の未来」)
に通じる大きな文脈があると感じた(たまたま、本書で引用されている本の多くを過去に読んだことがあったので、そのように大きな枠組みとの関連で捉えることができたのかもしれないが)。

他にも、心理学と経済学の接点となる行動経済学分野での最近の調査結果を広く紹介したDan Arielyの"Predictably Irrational"や、新しい動機付け理論の構成要素のひとつであるMasteryについてはGeoff Colvinの"Talent is Overrated"で論じられる"deliberate practice"(特定の分野で自分が上手く出来ない部分に焦点を当てて、それを繰り返し何度も練習し、且つ練習の出来具合に関してタイムリーにフィードバックが得られるような環境で行われる、通常はかなりの苦痛を伴う高レベルの意図的・計画的な練習のこと)に言及したりと、既読書への言及や関連が多い内容で、イメージが膨らませ易く、本書で著者が論じる内容の周辺部分も含めて構造的な理解に役立った。

他にも、心理学の分野での興味深い参考文献が多い。特に心理学者Mihaly Csikszentmihalyi と Carol Dweckの著書数冊は早速注文した。
因みに本書で引用されているCarol Dweckの以下の文章は、なかなか心に響くものがある。
"Effort is one of the things that gives meaning to life. Effort means you care about something, that something is important to you and you are willing to work for it. It would be an impoverished existence if you were not willing to value things and commit yourself to working toward them."

Saturday, June 19, 2010

[Book Review] 論点思考

問題解決←そもそも問題を正しく定義しているか?(正しい問題を解いているか?)
論点思考=解くべき問題を定義するプロセス




☆☆☆☆

数年前に読んだ「仮説思考」という本が(特に編集具合が酷く)余り良い印象を持たなかったので、本書はどうか、と思いつつ読み始めたが、本書は良くまとまっており得るものが多かった。
問題解決・課題解決に於いて、そもそも正しい問題を解いているか?間違った問いに答えを出そうとしていないだろうか?というのが本書のテーマ。印象に残った部分を一部挙げると、
・物事の現象と論点とは違う(例:少子化問題とは現象であって論点ではない)。
・業界全体に当てはまるようなことは、当該企業にとっての論点には成り得ない。
・論点は人(誰にとっての論点か?)に拠って、競争環境の変化、時間の経過と共に変わり得る。
・解決できないような論点設定は意味がない
・解決した暁にインパクトがないようなものはやっても無駄 (戦略とは捨てること=優先順位付け)
例示も適度にあって分かりやすい。

Saturday, June 12, 2010

[Book Review] Analytics at Work: Smarter Decisions, Better Results

前作を読めば充分。つまらない内容。



☆☆
3月半ばだったかに買って、3/2程度読んだが、あまりに退屈で投げ出してしまった本。
前作Competing on Analyticsが、一般受けしなさそうな内容にも関わらず、予想外に売れた為か(と冒頭で著者も書いている)、概論としての前著に対して、今回は続編(インプリ編)感じの内容である。この著者の本は、何となく常に、流行りそうなマネジメント・コンセプトを持ち上げるのに一役買っているような場合が多く、前著も言わばBI (Business Intelligence)の啓蒙本のような感じでもあったが、こんなものをマネジメントの主流理論のひとつとして真面目に取り扱うのは、いかがなものかと思う。

Saturday, June 5, 2010

[Book Review] Rework

"The real world isn't a place, it's an excuse. It's a justification for not trying. It has nothing to do with you."


☆☆☆☆
4月下旬ころに読んだ本であるが、本書に寄せられている賛辞の中で次のものが、この本の内容を上手く表現している"The brilliance of REWORK is that it inspires you to rethink everything you thought you knew about strategy, customers, and getting things done. Read this provocative and instructive book—and then get busy reimagining what it means to lead, compete, and succeed."--William C. Taylor, Founding Editor of Fast Company and coauthor of MAVERICKS AT WORK
要は、世の中で常識だと受け入れられている多くの考え方とはことごとく異なる方法で、自らの会社を創業し経営している著者による、常識に対する挑戦状の書である。冒頭にも、「多くの人間が一般的に持っている"世の中(=real world)というのはこういうモノだ"という常識的な認識が存在するからと言って、自分がそれと同じ世界観の中で生きなければならない必要はない。"real worldではこうだ"などと言うのは多くの場合、自ら考え斬新なことを試してみようとしない言い訳に過ぎない。それは我々が多くの企業にとっての常識とは全く異なる方法で経営をしてきて、成功していることで証明している」という旨のことを述べている。例えば、著者の主張を幾つか紹介すると、

■「失敗から学ぶ」という考え方は過大評価されている。「同じ失敗を繰り返すまい」ということは学べても、「じゃあ、どうやれば次は成功するのか」ということは殆どの場合学べない。失敗は成功する為の前提条件ではないのだ。成功から学ぶ方が効果的に決まっている。
■Planning特に長期計画などというのは自らコントロールできない将来の変数が多すぎるので、guessing以上のものではない。何かをやり始めるずっと前に計画を立てるのではなく、やり始める直前にプランして、やりながら常に変更を加えるのが正解。
■「何の為に?」という根本的な問いをせずに、成長して規模が大きくなることが善であるという妄信を捨てるべし。sustainableでprofitableであることの方がずっと尊いはずである。
■When you don't know what you believe, everything becomes an argument. Everything is debatable. But when you stand for something, decisions are obvious.→会社のミッションや方針というのはそういうものでないとダメ。
■変化するものにフォーカスするのではなく、変わらないものにフォーカスしろ。
■競争環境や競合相手の動向に対して取り付かれた様に気を揉むのではなく、自分達にもっとフォーカスすべし。
■顧客の要望や不満は、自社の製品の特性やターゲット領域の観点から意味のある場合のみ対応する。
■情熱と優先順位を混同してはいけない。
等々...

これら以外にも、常識と異なるわけではないが、棘や毒のある表現ながら本質を突いている部分も多い。例えば、
・What you do is what matters, not what you think or say or plan....The most important thing is to begin.
・No time is no excuse. There's always enough time if you spend it right. ...When you want something bad enough, you make the time - regardless of your other obligations.
・不毛なコミュニケーション中毒(emails, instant messaging, etc)や中断から逃れて「独り時間」を確保することが生産性向上の秘訣。

最後に、本書の中で気に入った一節"You don't create a culture. It happens. ... Culture is the byproduct of consistent behavior. .... Culture is action, not words." まさにそうである。
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[Book Review]星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則

定石通りに忠実にやりきることから生じる強さ


☆☆☆☆

「教科書通りの戦略=定石」だけでは自社の優位性は生まれず、定石を知った上で、如何にそこに自社ならではの「ひとひねり」を加えられるか、が競争優位を生み出すうえで肝要、といった旨のことを説く本がある(例えば、以下の本。数年前に読んだ本なので内容の詳細は覚えていないが...)。


「そうだろうなぁ」と感じる。しかし実際には、100%基本を忠実に実行できているような立派な会社など在りはしない。即ち、教科書通りに定石を実行できている会社が殆ど存在しない中で、敢えて、徹底的に教科書通りの定石にこだわり、それを実践するというところが、星野リゾートの競争優位を形成しているのだと理解した。
ミッションやヴィジョンを正しく社員に周知徹底し、常にそれらに立ち返って諸施策を考える、ターゲット顧客を正しく設定する、社員が自発的に考え行動するしくみを構築する、といったひとつひとつの部分を忠実に教科書が説く通りに実行してきた様子が描写され、また、実際にどの教科書の教えを忠実に実行したのかが紹介されている。
併せて、この方法は、考え方を社員との間で共有する際に、ベースとなっている教科書を読んでもらう、勉強会をする、といった形での方法を採ることが非常に容易であるという点で、会社の諸施策を、その考え方まで含めて社員に浸透させ、且つ、同様のコンセプトや方法論を用いて社員が考え行動するような学習・成長の環境を醸成していく観点からも効果的だと感じた。