Sunday, February 17, 2008

[Book Review] The Wisdom of Crowds

Wisdom of crowds(集合知)の有効性に関する豊富な事例が示唆するところは極めて大きい!



☆☆☆☆☆

ここ数ヶ月の間に読んだマネジメント、統計、投資関連の複数の本(例えば“The Future of Management”[Hamel], “The Upside”[Slywotzky], “What Were They Thinking?”[Pfeffer], “Expert Political Judgment”[Tetlock], “Super Crunchers”[Ayer], “Black Swan”[Taleb],等)で幅広く引用されており、気になっていた本書を遅まきながら読んだ。
『一部の専門家やプロの判断よりも、知識や経験のレベルや領域もそれぞれの(専門家も含む)多くの人達による集合知(或いは全体の平均値)の方が正しいことが多い』という、ともすれば直感的には「えっ?ホント?」と疑わしく感じることを、多くの事例と実証研究を紹介しつつ説いている。但し、集合知が有効に機能する為には、とりわけ構成員の意見が多様であり(diversity)且つ他人の意見に影響を受けない (independence)状況が必要である旨強調している。
本書で取り上げられている例は、動物の体重や瓶の中のjellybeanの数、消息不明になった潜水艦の位置の推定から始って、プロスポーツの勝敗や大統領選候補者の指名予測、ハリウッド映画の興行成績の予測、自動車エンジンの発達等イノベーション、スペースシャトル事故、税金、株価形成、組織運営や経営の意思決定、等実に広範囲に亘る。
個人的には、なぜ本書が近年のマネジメントの方法論、とりわけ組織運営・リーダーシップ・イノベーション分野でのアプローチに大きな影響を及ぼしているのかにつき、大いに納得すると共に、experimental economics(実験経済学)やシミュレーション等が意思決定に応用されていく可能性に期待できると感じた。巻末注の関連文献も興味深いものが多い。

Monday, February 11, 2008

[Book Review] What Were They Thinking?: Unconventional Wisdom About Management

マネジメントの種々の方法論を「常識に対する斬新な眼力」で検証



☆☆☆☆
前著と趣の似た内容であり、マネジメントに関する種々の方法論や考え方を、主に人間の感情や行動原理の観点から考察することによって、それぞれが本当に有効な方法論なのか否かを検証している。
例えば、経営不振に陥った際にリストラ、給与・ベネフィットのカットといった施策を実行することは、経営陣に対する不信感を強め従業員の貢献意欲を減じさせるだけで効果は出ない、といったことに始まり、就業時間内に私用をおこなっている社員を監視しても殆ど意味はない、確定拠出型ベネフィットの経済合理性は疑問、組合が持つ経営面でのプラスの効果、等々が論じられている。これらの議論のベースにあるのは、社員とマネジメント間の信頼関係(或いは norm of reciprocity互恵性/返報性の規範)を損なうような施策が有効に機能することはない、という社員を中心に据えた考え方である。
著者が明確に言及している訳ではないが、この延長線上には、社員個々人が主体的に取り組み集合知を発揮するコミュニティに似た組織というのが理想的な組織として想定されるであろうし、また、そういう組織こそが、社員から継続的に最大限の力を引き出せる組織であり、更に顧客志向という観点で言えば「ES (employee satisfaction)なくしてCS (customer satisfaction)なし」といった考え方にも通じるのだと感じた。このように捉えるとWeb 2.0や ”The Wisdom of Crowds” (James Surowiecki著), “The Future of Management” (Gary Hamel著)等で述べられているテクノロジー・社会・マネジメントの進化の底流にあるものを多少なりとも関連付けて見えるように思う。