Saturday, November 17, 2007

[Book Review] Competing on Analytics: The New Science of Winning



☆☆☆
前半ではData crunchingがビジネス分野でのどのように用いられ経営の意思決定プロセスに組み込まれているか を種々の例(例えば有名なLas Vegasのカジノ・リゾートHarrah’s Entertainmentの例とか…)を紹介し、後半ではanalyticsを企業の競争力の源泉にしていく為の方法論が展開されている。業界の consolidationが一気に進んだBI (business intelligence)の分野の啓蒙書的な感じも併せ持っているように思う。
内容的には有用だとは思うが(また著者の意図もそうなのだろうが)、analyticsそのものが競争優位の源泉になるのではなく、本書で示されているような全社的にanalyticsを活用できる体制を構築・整備したうえで、データ分析に関する斬新でユニークな着眼点、及び分析の結果をアクションにつなげていく際の独創性が競争優位の源泉になるのだと思う。非常に卑近且つ低レベルな例で言えば、MS Excelでpivot tableの作成の仕方を知っているだけの人間と、経験を通じて、二次元上にどういうデータ項目を持ってくることによって何が表現できるのか?どういう切り口でデータを鳥瞰できるのか?その結果がどういうアクションにつなげ得るのか?を知っている人間の差は無限大に近いと思う。そういう意味では、 analyticsが全社的に有効に使えるレベルまでいく為には、実用的な素養のある人間の比率がある程度のレベルまで高まってくることも必要条件だろうという気がする。
尚、類似の内容でdata crunchingが社会政策面等も含め幅広く応用されていることを紹介したものに、Ian Ayres著の”Super Crunchers”がある。

6/12/2010追記:続編 "Analytics at Work: Smarter Decisions, Better Results"が出ているが、つまらなかった。

[Book Review] Super Crunchers: Why Thinking-By-Numbers is the New Way To Be Smart

Data crunchingのビジネス・政策面での有用性を紹介


☆☆☆☆
統計的な手法を用いたData crunchingが如何に社会の多方面で活用されているかを、多くの例示を用いて紹介している。特にビジネスだけでなく、むしろ社会の政策面や法律等の分野でこうした手法が幅広く効果的に用いられている例は自分には新鮮であった。ところで、この本を読んでみようと思ったのは、統計的手法の有用性に対する懐疑心からであった。特にNassim Nicolas Talebの著書”Fooled by Randomness”や”The Black Swan”で展開される、「世の中は正規分布で表現されるようなことばかりではなく、fat-tailや予測不能な運に支配されているという世界観」との対比で読んでみたいと思ったのであるが、(以外にも) data crunchingから有益な意思決定や予測に導けることは多数あり、そのこと自身には大いなる可能性を感じた。その一方で自らの経験も含めて言えば、この手法は恐らく投資には必ずしも当てはまらない、あるいは未だそのレベルまでは熟していないと思う。実際、多くのquants系のhedge fundが崩壊している事実 (特にノーベル経済学者2人をパートナーに含むLCTMの1998年の崩壊は有名。Roger Lowenstein著の”When Genius Failed”で詳述)や、同様に長年に渡って持続的なreturnをあげているquants系のhedge-fundsも余り見当たらない。、その点では本書10ページでhedge fundでsuper crunchingが盛んである旨言及しているが、成功しているかどうかとなると別問題だと思う。要は適用できる分野とそうでない分野が存在するということだろう。尚、巻末の注を辿って種々のweb sitesに行ってみると、web上で入手できる論文や関連データの多さに驚く。