科学に基き「飴とムチ」原理の動機付けからの脱却を提言
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"A Whole New Mind"の著者Daniel Pinkがモチベーションを論じた新作(邦訳も近日中に出版される)。近年の種々のリサーチ結果からは、「飴とムチの原理」に基く動機付けは、ルーティン業務であればともかくも、コンセプトや創造性の必要な業務(著者流に言えば右脳型の業務)に於いては逆効果であることが証明されているにもかかわらず、ビジネスの世界を中心に、依然として旧来の動機付けの考え方(extrinsic motivation)が支配的であることに対して警鐘を鳴らすと共に、職場での動機付けの方法は学術的な調査結果を踏まえて、もっと人間の内部に本来的に備わっている動機付け(intrinsic motivation)に訴えかける方法、即ち autonomy (self-direction), mastery (complianceからengagementへの意識変化を通じた恒常的な向上心), purpose (人間の本質に根ざす意義・目的意識)を重視したものに変わっていく必要があると論じる。
この主張のベースとして、
・早くも1960年に、本質的にintrinsic motivationの重要性を主張したDouglas McGregor教授のX理論・Y理論を紐解き(私も25年くらい前に大学の「経営組織論」で習ったのを覚えています。懐かしい)、更に、
・また、過去100年くらいの間に、テクノロジーが非常に大きな進歩・発展を遂げたことは周知の事実であるが、マネジメントの方法論については同様に大きなイノベーションは生じておらず、マネジメント理論にこそイノベーションが必要である事を論じると共に、如何に従業員を解き放ちベスト・パフォーマンスと創意工夫を継続的・持続的に引き出し(Making innovation everyone’s job, everyday.)、且つ同時に自発的なコミットメントと規律の効いた組織にできるか?(即ち、マネジメントのイノベーションとはマネージする事を減らすこと)を実現することが肝要であると主張したGary Hamelの"The Future of Management"(邦訳「経営の未来」)、
に通じる大きな文脈があると感じた(たまたま、本書で引用されている本の多くを過去に読んだことがあったので、そのように大きな枠組みとの関連で捉えることができたのかもしれないが)。
他にも、心理学と経済学の接点となる行動経済学分野での最近の調査結果を広く紹介したDan Arielyの"Predictably Irrational"や、新しい動機付け理論の構成要素のひとつであるMasteryについてはGeoff Colvinの"Talent is Overrated"で論じられる"deliberate practice"(特定の分野で自分が上手く出来ない部分に焦点を当てて、それを繰り返し何度も練習し、且つ練習の出来具合に関してタイムリーにフィードバックが得られるような環境で行われる、通常はかなりの苦痛を伴う高レベルの意図的・計画的な練習のこと)に言及したりと、既読書への言及や関連が多い内容で、イメージが膨らませ易く、本書で著者が論じる内容の周辺部分も含めて構造的な理解に役立った。
他にも、心理学の分野での興味深い参考文献が多い。特に心理学者Mihaly Csikszentmihalyi と Carol Dweckの著書数冊は早速注文した。
因みに本書で引用されているCarol Dweckの以下の文章は、なかなか心に響くものがある。
"Effort is one of the things that gives meaning to life. Effort means you care about something, that something is important to you and you are willing to work for it. It would be an impoverished existence if you were not willing to value things and commit yourself to working toward them."
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